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東京地方裁判所 昭和40年(行ウ)34号 判決 1965年5月12日

原告 岩切勉

被告 法務大臣

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は適法な呼出しを受けながら、本件口頭弁論期日に出頭しないが、陳述したものと看做した訴状、準備書面によるとその求める裁判及び請求の原因は別紙一、被告の主張に対する反論は別紙二に各記載のとおりである。

被告の求める裁判と答弁は別紙三記載のとおりである。

理由

原告は被告のした昭和四〇年二月一三日付裁決の取消しを求めているが、裁決の取消理由として主張するところは、すべて大阪法務局長が昭和三九年一一月一一日付で原告に対してした司法書士認可申請を不認可とする原処分についての違法であつて、裁決固有の違法を主張するものではない。

そして、行政事件訴訟法第一〇条第二項によれば、処分の取消しの訴えとその処分についての審査請求を棄却した裁決の取消しの訴えとを提起することができる場合には、裁決の取消しの訴えにおいては処分の違法を理由として取消しを求めることができない旨定められている。従つて、原告の請求は、主張自体理由がないから、その余の点について判断するまでもなく失当である。原告は、本件訴え提起当時において、すでに、不認可処分を原告が知つた時から三箇月を経過していたので、右処分に対する取消訴訟を提起することはできず、従つて、本訴は同項の適用がない場合であると主張する。しかし、同法第一四条第四項によれば、原処分に対する出訴期間は、審査請求をした者については、これに対する裁決があつたことを知つた日から起算されるのであるから、右司法書士不認可処分の出訴期間は、当事者間に争いがない、これに対する裁決があつたことを原告が知つた日、すなわち昭和四〇年二月一七日から起算し三箇月以内である同年五月一七日までであり、原告が本件訴を提起したのは同年三月一七日であるから、原告の主張の理由のないことは極めて明白である。

よつて原告の請求を棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 白石健三 濱秀和 山下和明)

(別紙一)

請求の趣旨

原告の司法書士認可申請に対する大阪法務局長が昭和三十九年十一月十一日付で為した不認可とする処分についての審査請求(法務省民事甲第三〇三号事案)に基き、昭和四十年二月十三日付を以つて被告が為したる裁決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

との判決を求めます。

請求の原因

一、原告は、昭和三十九年十二月十一日付で不服申立書を以つて、行政不服審査法第五十八条第一項の規定により、審査請求事件として、裁決書謄本(甲第一号証)の理由として記載されてある左の事由で、昭和三十九年五月十二日に原告が為したる司法書士認可申請に対する大阪法務局長の昭和三十九年十一月十一日付の不認可とする処分についての審査請求を被告宛てに為したる処、被告は昭和四十年二月十三日付で、「本件審査請求を棄却する」との裁決を下し、この裁決書謄本(甲第一号証)は被告の補助機関である民事局長新谷正夫が之を作成して同月十五日に最高裁判所内郵便局引受ト四八六号書留配達証明郵便にて審査請求人たる原告宛てに送付せられ、同月十七日に原告の許に到達した。

審査請求理由は左の通り。

(1) 大阪法務局長が司法書士法第四条第一項に規定する司法書士認可の選考にあたつて選考試験を実施することは、選考基準が法律上なんら規定されていないから違法である。

(2) 前に司法書士業務に従事していた者がその認可取消処分をうけたが、その前提となつた有罪判決に付された執行猶予期間を無事経過して司法書士再認可申請に及んだときは、法務局長はこの欠格事由の消滅の有無のみを審査すべきであり、既得権の尊重を要するから、司法書士法第二条の要件及び司法書士としての適否についてまであらためて審査することは許されない。

(3) 斯かる理由より、大阪法務局長が昭和三十九年六月二十日、二十一日の両日に実施した選考試験に原告が出頭して受験しなかつたからといつて、原告に対して司法書士認可再申請に対する不認可処分を為したのは違法であつた。

二、原告が終始一貫して主張した前条審査請求理由のしめす法律上の見解は、次に述べる事由によつて正当である。即ち、

原告が昭和三十九年五月十二日に大阪法務局長に対して為した司法書士認可再申請に対し、相当の期間日数を経過しても何らの行政処分を同局長は為さなかつたので、前条審査請求理由記載の理由そのものを事由として、同年六月十日付で審査請求書を以つて、不作為についての審査請求を被告に対して為したが、被告は同年八月八日付で「本件審査請求を棄却する」との裁決を下したので、適法に東京地方裁判所に対し、同年八月十九日付で右裁決取消請求訴訟を提起した。同裁判所は、第三民事部が担当し、昭和三九年(行ウ)第六七号事件として審理のうえ、同年十一月十日に原告の請求を失当として請求棄却の判決言渡があつたので、原告は之を全部不服として、同月二十五日付で東京高等裁判所に控訴の申立てに及んだ処、同裁判所は、第十五民事部が担当し、昭和三九年(行コ)第五一号事件として審理せられたのであるが、大阪法務局長が同月十一日付(日記総第六七二六号)で原告に宛てゝ、司法書士の認可をしない旨の処分をするとの通知を発したので、原告請求の目的が消滅したという一事を以つて、昭和四十年三月九日に、控訴棄却の判決言渡があつた。しかしながら、この判決理由末段には、「控訴人の請求の実体について審判し、その請求を理由ないものとして請求を棄却した原判決は、現在においては、その理由において失当たるを免れない」と明確に判示し、唯請求の目的が消滅したということで、原告が為した控訴の申立てを不適法としてこのように控訴棄却の判決が言渡されたのである。原告は、この東京高等裁判所第十五民事部の判決によれば、原告の主張する本訴状請求原因第一項の審査請求理由として記載したと同じ事項を請求原因とする前記東京地方裁判所第三民事部昭和三十九年十一月十日言渡の原判決が失当であつたことになつたので、この限りに於いて原告のかねてよりの法律的見解はすべて是認されたものとみて、昭和四十年三月十四日付で上告権放棄の手続をなし、よつて、この判決確定をみたのである。

三、判決が確定すると、その判決の内容たる訴訟物に関する法律的判断が当事者間の法律関係を規律する標準となり、その後再び同一の事項が訴訟上の問題となつても、当事者はこれに牴触する主張を有効にすることができないし、裁判所としてもこれに牴触する判断をすることができなくなるのである。この拘束力は、既判力と呼ばれ、前訴(前条のしめす裁決取消請求)と後訴(本件訴訟)の両者の請求原因として主張した原告の法律上の見解は、その主張事実とともに同一の事項であり、したがつて、この両者間に請求原因が異なるものがあるとはみられない。

四、よつて、原告本件請求が正当でないとせられる法律上の理由はないので、請求趣旨記載通りの判決を早急にお願いして本訴に及ぶ。

(別紙二)

一、被告の主張に対する反論

答弁書は、訴状と同じく一の準備書面であるので、民訴法第二四四条によつて作成せられるのでなければならないところ、被告の答弁書によれば、当事者としては被告を唯法務大臣とのみ記載されてあり、その官庁たる高橋等の氏名の記載が欠けている許りでなく、その指定代理人の職業及び住所の記載が無い。しかも、該答弁書には、代理権を証する書面が添付せられている旨の記載もない。斯くて、小林定人、鈴木智旦、御園生進、石川隆が被告の代理人として指定せられている法的根拠乃至その権限を本件訴訟に関しては原告として知る術も無く、他人がみても同様のことと客観的に判断するであろう。従つて、右指定代理人と称する四名の答弁書作成並びに提出は無権代理行為であるから、被告の答弁は法律上の効力が無い。

二、「被告の主張」と題する主張について

被告は行政事件訴訟法第一〇条第二項を引用し、裁決の手続上の違法その他裁決固有の違法を主張するのではない本件訴訟の主張自体理由が無い、と主張する。

然し乍ら、この主張が被告の主張として法律上の効力をもたないものであることは前叙の通りであり、そうでなくても法律上の解釈を誤まつたものである。即ち、

行政事件訴訟法第一〇条第二項は、処分の取消しの訴えとその処分についての審査請求を棄却した裁決の取消しの訴えを提起することができる場合に、裁決取消しの訴えのみを提起して、それによつて処分の違法を理由としてその取消しを求めることはできないとするものである。ところで、取消訴訟は、処分があつたことを知つた日から三箇月の不変期間内でなければ提起できない(行政事件訴訟法第一四条第一項)のであつて、当事者間に争いのない事実である大阪法務局長が原告を司法書士不認可とする処分を昭和三十九年十一月十一日付で為したのを知つた同月十三日から本件訴訟に提起したる昭和四十年三月十六日迄にすでに右大阪法務局長の処分取消しの訴えは提起することができなくなつていた。

原告は、大阪法務局長より昭和三十九年十一月十三日に原告を司法書士不認可とする処分通知を受取つたのであるが、その通知は書面によつて為されたので、それには行政不服審査法第五七条第一項の定める教示が為されていなければならないのに拘らず、違法にも教示せられなかつたから(甲第五号証)、同法第五八条第一項の規定により不服申立てをした処、被告は之を適法のものとして審査請求をしたとみなされて、甲第一号証のしめす裁決が為された。之が事情の経過については、本件訴訟の訴状請求原因第一項として記載した処であり、被告も亦之を認めて争わない処で、本件訴訟を適法に提起したことは明らかである。

おもうに、本件訴訟について、処分取消しの訴えと裁決取消しの訴えとを提起することができる場合に該当したか否かは、訴訟提起時である昭和四十年三月十六日を時的基準として判断しなければならないものであるが、前叙事情によつて右昭和四十年三月十六日には、大阪法務局長が原告を司法書士不認可処分とした処分取消しの訴えはできないのであつたから、被告の見解は法律そのものゝ解釈を誤まつた被告独自のものであり、而して、本件訴訟に於いて原告が右処分の違法を理由とする主張を為しても、之を不適法とする法的根拠はなく、まして、被告は本件訴訟手続に関しては他に抗弁をしていないのであつて、本件訴訟を適法とみるのが相当である。

三、被告は、原告が訴状請求原因第三項で述べた既判力理論を争う旨主張するが、原告のこの点の主張は、前訴の控訴審に於ける控訴棄却の判決事実中の請求の趣旨及び原因によつてどんな請求が審判の目的であつたかを判定する必要のあるものであつて、仮に既判力理論とすることが適切ではないにしても、前訴を取扱つた御庁からすれば東京高等裁判所は直近の上級裁判所であり、その第二審たる東京高等裁判所が、前訴に於いて御庁が為した判決は失当であると極めつけたのであるから、御庁がこの第二審判決の判決理由にしめした判断に準拠しない限りは再び同じことが繰り返されるは必定である。被告も、右東京高等裁判所判決(甲第三号証)の判決理由末段に、「控訴人の請求の実体について審判し、その請求を理由ないものとして請求を棄却した原判決は、現在においては、その理由において失当たるを免れない」と記載されてあることを認めている以上、殊更に、原告の主張事実を失当とするべき道理は無いのである。尚、「その排斥した結論は、結局正当に帰するというべきであつて、本件控訴は理由がない」と東京高等裁判所が判示したのは、不作為についての審査請求に対しての裁決取消し訴訟は、控訴審理中に訴訟の目的を消滅したので、この意味で右理由に付け加えて判示されたのである。

四、御庁は、前訴に対する判決を失当に致したことでもあるので、今回は斯かる不公平な裁判をしないように留意して載きたい。

(別紙三)

答弁書

請求の趣旨に対する答弁

原告の請求を棄却する

訴訟費用は原告の負担とする

との判決を求める。

請求の原因に対する答弁

第一項 認める。

第二項中 原告が昭和三九年五月一二日大阪法務局長に対し司法書士認可申請をなし、さらに、同年六月一〇日付審査請求書をもつて被告に対し不作為についての審査請求をなしたこと、被告が同年八月八日付で「本件審査請求を棄却する」旨の裁決をなしたこと、原告が同年八月一九日付で東京地方裁判所に同裁決の取消請求訴訟を提起し、同事件は昭和三九年(行ウ)第六七号事件として民事第三部において審理のうえ、同年一一月一〇日「原告の請求を棄却する」旨の判決言渡があつたこと、同判決に対し原告が同年一一月二五日付で東京高等裁判所に控訴を提起し、同事件は昭和三九年(行コ)第五一号事件として第一五民事部において審理のうえ、昭和四〇年三月九日「控訴人主張の司法書士認可申請については、大阪法務局長が昭和三九年一一月一一日付で認可を与えないむねの処分をしたことによつて、控訴人主張の如き大阪法務局長の不作為の状態は解消したものというべきであるから、もはや本訴は、その訴訟の目的が消滅したことにより、訴の利益が失われたものというのほかはない」との理由により、「本件控訴を棄却する」旨の判決言渡があつたこと、同判決の理由の末段に「よつて、控訴人の請求の実体について審判し、その請求を理由ないものとして請求を棄却した原判決は、現在においては、その理由において失当たるを免れないが、その排斥した結論は、結局正当に帰するというべきであつて、本件控訴は理由がない」との記載があること及び同判決が原告の上訴権放棄によつて同年三月一七日確定したことは認めるが、その余は争う。

第三項及び第四項 争う。

被告の主張

行政事件訴訟法第一〇条第二項によれば、原処分を正当として審査請求を棄却した裁決の取消しの訴えにおいては、裁決の手続上の違法その他裁決固有の違法を主張するは格別、原処分の違法を理由として取消しを求めることはできないとされている。原告は本訴えにおいて原処分を正当として審査請求を棄却した被告の裁決の取消を求めるが、その取消理由として原告の主張するところは、いずれも原処分の違法の主張に帰し、本件裁決の手続上の違法その他裁決固有の違法を主張するものに該当しないから、主張自体理由がないといわなくてはならない。

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